浜松医科大学内科学第二講座 人を知る 肝臓内科 専門医(研究)

自分にしかできない
仕事をしたい。
その想いがスタートライン。

肝臓内科

千田 剛士医師

金沢大学 2004年卒

手技と知識が求められる消化器科医。

「誰かに頼られる、自分にしかできない仕事がしたい」。千田が医師を目指したスタートラインは、そんな漠然とした想いだったという。学生時代は「全身管理ができる内科医を目指していた」という千田が選んだのは、消化器医への道だった。「消化器内科は内視鏡、肝胆膵の穿刺などの手技が多く、一方で肝炎、肝不全のような疾患では背景にある病態を捉える知識と経験も必要です。また、全身管理や救急医療もできないといけない。でもその中で、『自分にしかできない』専門性を見つけたいと感じた」という千田。研修医終了後、市中病院に5年勤務して大学に転勤し、1年後に大学院へ。学位取得後は大学病院で医員として勤務し、肝胆膵疾患を中心とした診療を行っている。

研究面では、原発性胆汁性肝硬変や非アルコール性脂肪肝、ウイルス肝炎といった分野で、肝生検組織や患者血清を用いた基礎研究、臨床研究に取り組んできた。「現在では、DAAsという種類の内服薬でほとんどの患者さんからC型肝炎ウイルス(HCV)を排除できるようになりました。しかしウイルスを排除したにも関わらず、肝癌を発症する患者さんがいることが知られています」。千田が今取り組んでいるのは、このようなHCV排除後の肝発癌を予測するマーカーの探索だ。「C型肝炎の分野では、近年の目覚ましい薬剤開発により診療が大きく変化しています。そうしたニーズの大きな分野への貢献は理想的ですが、その一方でこうしたニッチな分野、“自分にしかできない何か”で患者さんに感謝されることができたら、というのが夢ですね」。

臨床の疑問を、研究で解決する。

千田の毎日は多忙だ。月曜と火曜は半日院外勤務、水曜から金曜までは大学病院で教授回診やカンファレンス、病棟勤務が続く。研究に当てられる時間は、これらの勤務の合間か、診療後の時間だ。「内視鏡検査のある木曜は、朝から夕方まで検査や処置、カンファレンスが続くので、自分の研究に取り組むことができるのは主に夕食後です」。勤務医として多忙を極めながら研究に向かう、そのモチベーションの源は何だろうか。「医師のキャリアは人それぞれだとは思いますが、やはり基本は臨床医としてのステップアップが重要だと思います。しかしある程度臨床に従事していると、自分の診療に疑問を持つようになります。それに解答を与えてくれるのが研究という分野なのかなと考えています」。

そんな千田は、近々アメリカへの留学を控えている。行き先はロサンゼルスにある大学の研究施設。学位を取得した肝炎の分野における研究をさらに発展させるのが目的だ。「質の高い診療は研究によって裏付けられていますが、かといって研究だけでは医学の本質と離れてしまいます。研究を応用して臨床をより発展させることを目指したいと思います。アメリカで何ができるのかはまだわかりませんが、向こうはプロジェクトの規模も大きいし、世界からいろんな人が集まってきます。これまでに出会ったことのないような発想を持つ人とも出会えるはずです。そんな刺激的な環境の中で研究に打ち込める日々が、今から楽しみです」。

医局は、医師の道しるべ。

千田が入局を決めたのは、研修医過程の修了後、3年目のことだった。「先ほど触れたように、全身管理ができる医師になりたいというのが消化器内科を選んだ理由でしたが、こんなにやることが多くて自分に務まるのか、不安だったというのも事実です」。そんな自分を後押ししてくれたのが、第二内科の存在だったという。肝臓内科を選んだ理由は、研修医時代に指導を受けた先生方の診療や人間性が、自分の目指すイメージと重なったから。また、他大学出身の千田を歓迎してくれた温かさや居心地の良さも、大きな理由だった。千田にとって、医局は、医師として歩む道しるべのような存在だ。「市中病院では多くの手技を、大学病院では考える力を培うことができるので、両方の病院勤務を通じて多くの指導医の考え方に触れることがとても大切になりますが、若手の医師が自分の力だけでキャリアプランを立て、実行していくのは困難と言わざるを得ません。それをコーディネートしてくれるのが医局の存在でした。それに、医局の先輩後輩という絆は何ものにも代えがたくて、僕自身も日常診療から学会発表や論文の作成まで先輩医師に大変お世話になってきましたし、自分が先輩になってみるとやはり後輩はかわいいものです」。

研修医のころに聞いた学長の言葉で、今でも心に残っているものがある。「まずは10年、必死でがんばれ」。10年が経過した今、千田は、10年たってもこの分野にはまだまだ未知のことが多く、自分自身にも勉強が必要だと語る。しかし、それに気付いたことで診療や研究に向かう姿勢が変わったという。「上を見れば追うべき背中、下を見れば追い上げてくる後輩の姿。しばらく距離は離れますが、第二内科の存在はこれからも僕の一番大きな支えです」。

MESSAGE

学生実習や臨床研修でたくさんの先生や友人に出会う中で、仕事においても生き方においても、目指す姿がだんだん具体的になってくると思います。たとえそれが漠然としていても、こんな感じになりたいというイメージを温めていると、少しずつ実現に近づいていけるような気がします。第二内科には魅力的な先生がとてもたくさんいますので、実習や研修を通してみなさんの将来を大きく変える出会いや経験があったらいいなと思います。
取材:2019年6月