浜松医科大学内科学第二講座 人を知る 内分泌代謝内科 専門医(研究)

「後にはひけない」決意が
臨床と研究を両立させる。

内分泌代謝内科

黒田 豪医師

浜松医科大学 2009年卒

治療に、研究に、じっくり取り組みたい。

現在、浜松医科大学に医員として勤務すると同時に、大学院の博士課程に在籍している黒田。子どものころから白衣を翻して病気に苦しむ人を助ける、そんなヒロイックな姿への憧れがあり、中学の卒業文集には、既に「将来の夢は医者」と書いていた。そんな黒田が内分泌代謝内科に興味を持ったのは、研修医として糖尿病に悩む患者さんに触れたことがきっかけだった。糖尿病は、いわゆる“common disease”であり、誰もが無縁ではいられない病気だ。また慢性疾患でもあるため、腰を据え時間をかけて治療していく必要がある。「ひとつの事柄にじっくり取り組むやり方が、自分には一番向いている」と語る黒田が内分泌学の道を進んだのは必然だった。

黒田の毎日は、大学院生の例に漏れず多忙だ。臨床では、主に入院患者さんの診療を担当。大学病院には比較的多様な症状の患者さんが集まるため、難しい症例も多いという。「下垂体疾患、副腎疾患、甲状腺疾患、そして糖尿病といった多彩な内分泌代謝疾患の入院がありますが、特に下垂体・副腎疾患は一般病院と比較して割合が高く、県内外から患者さんが集まります。難しい症例も多いですが、カンファレンスで協議しながら方針を決定しています」。外勤のある日は午前中に関連施設で勤務し、午後は主治医として担当している入院患者さんや他科コンサルトの対応を行うこともある。後述する研究もあるため、勤務日は夜まで大学にいることもあるという黒田だが、対照的に、休みの日には仕事から離れてリフレッシュしているという。「確かに忙しい日々ですが、当科では休みの日は当番勤務にしたりするなどしっかり休みを確保できるようにしているので、ストレスを抱えるようなことはありません。ただオフの日は、仕事とは違ってほとんど単独行動はできないですね(笑)。子どもが生まれる前は、休みの日には自転車に乗ったり旅行に行ったりしていましたが、今はほとんど家族と過ごしています」。

甲状腺ホルモンの未知領域に挑む。

一方、研究面では甲状腺ホルモンによるネガティブフィードバックの作用機構をテーマに掲げている。内分泌代謝内科には、下垂体・副腎、甲状腺、糖尿病の3つの研究グループがあり、黒田が属している甲状腺グループでは視床下部-下垂体-甲状腺系を切り口に、核内受容体を介して起こる転写抑制機構の解明を目指している。黒田はその中の一つである視床下部傍室核のTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)を対象に、基礎研究を行っている。「FT3、FT4が高値であるときにTSH(甲状腺刺激ホルモン)が抑制されている、という現象は日常診療で頻繁に遭遇しますが、この詳細な機序はいまだ解明されていません。その基本的なメカニズムを探るのが研究の目的です」。ホルモンについては、現象はよく知られているが、なぜそうなるのかが解明されていない事象がいまだに多い。ホルモンの働きを理解することは、からだの基本的な機能・働きを解明することにつながる。それがすぐに治療や製薬に結びつくという性質の研究ではないが、人類が自らの身体を理解する上では欠かせない研究といえる。それが黒田を惹きつけている理由でもある。「今、TRHのネガティブフィードバックに重要な転写因子があること、TSHと同様の分子メカニズムが存在していることなどがわかってきました。今はこの研究を論文にまとめる段階に入っており、指導医の先生の協力もいただきながら年内の完成を目指しています」。


これからますます多忙となりそうな黒田だが、臨床と研究を両立させるモチベーションはどこから生まれてくるのだろうか。「臨床では、患者さんがいますから引き受けたら投げ出すわけにはいきません。治療をやり遂げるしかないんです。研究も同じで、取り組んだ以上は結果を出していくしかない。あくまで僕にとっては、ですけれど、この『後にはひけない』という気持ちが原動力になっていますね」。

臨床も研究も「人とのつながり」に支えられている。

黒田が入局を決意したのは、地元である浜松の地域医療に貢献しつつ、医師としても成長していきたいという想いからだった。「医局に在籍することで得られるメリットは多々ありますが、中でも『人とのつながり』を得られることは大切です。ひとつの病院における内分泌科医の数は限られますが、医局にはたくさんの医局員が所属しており、複数の施設で勤務し、全体での勉強会などに参加していくうちに多くのつながりを得ることができるのです」。また臨床面だけでなく、勤務できる施設が多種多様であることも大きな利点だ。


「内分泌専門医の取得には市中病院では遭遇することの少ない下垂体・副腎疾患などの症例を経験することが必要ですが、大学病院では症例集めに苦慮することはありません。一方で市中病院では糖尿病専門医取得に必要な症例を外来・入院で多数経験することができます。実際にどちらの専門医もスムーズに取得することができました。当然ながら研究を行いたい場合にも十分な環境が揃っています。医局に入るということは、将来の選択肢を増やすことにつながると思います」。実験を進めるために不可欠な、しかし通常の手段では入手困難な試薬や情報を、医局の上司と他の研究者のリレーションシップによって手に入れられたこともある。研究には、研究者同士のつながりやコミュニケーション能力も重要であることを痛感した経験だ。「まだ自分は若手ですが、私が学生のころにはなかった糖尿病薬(DPP4阻害薬、SGLT2阻害薬)が現在は内服治療の主流になっていたり、免疫チェックポイント阻害薬の普及により副作用としての下垂体機能低下症が増えたりと、日々状況は変化しています。これから入局される新しい仲間とも切磋琢磨して、内分泌代謝科を盛り上げていきたいですね」。

MESSAGE

内分泌代謝内科はcommon diseaseから専門性の高い疾患まで幅広く、ニーズも非常に高い分野です。また内分泌代謝内科で扱う病気は、他科と連携して治療に当たることも多く、幅広い経験を通じて医師として成長していける分野です。医局に入ることで、大学病院、関連市中病院、大学院などの職場環境の選択肢が増え、そのメリットはさらに強くなります。緊急症例や時間外勤務は少なく、ライフスタイルに合わせやすい科でもありますので、腰を据えて専門性を高めていきたい方はぜひ当科に注目してみてください。
取材:2019年6月